No.114 ちからくん

恩着せがましくボーナスをありがたがらせるため、いつもボーナス支給日には遠くはなれた工場で全体朝礼が行われ、ながながと中身のない話を聞かされる。同じ時間にいつもより20kmも離れた場所に行かなきゃいけないので、うんと早起きしなきゃいけない。 ところが今日ぼくはなぜか目覚ましが鳴らず、6時30分に起きるはずが7時40分に起きてしまった。 ほんとならこういう場合、もう完全に間に合わないので直接会社の方にいくのだが、今日は朝礼のついでに持っていくデータや原稿なんかがあったのでなんとしてもいかなきゃなんない。 最悪。 工場につくとすでに朝礼ははじまっていたので、終わるのをまって皆と合流。続いて本社レベルの朝礼、部署レベルの朝礼とこなし、ようやく無駄な時間終了。はやく帰ってやんなきゃなんないこと山積み。 帰りにちっと家にまわって弁当を受け取る。 さぽは今日は午後からバイトなので、家にいて年賀状の木版を彫っていた。 

と、不意にミミがうなりだしたのでそちらを見ると、見かけない毛艶のいいまるまるとした白トラ(トラの部分は黒)猫が、家のなかのミミをじっとみてる。 はじめ「敵か?」とおもったんだけど、よくよくみるとうんとかわいい奴で、ミミが一生懸命戦闘体制になってるのにむこうには全く敵意などなく、ものすごく純粋な目でミミや家の中をみている。 たまらなくなって外にでて、逃げられるの覚悟で近付くと、はじめこそビクッとしたものの、安心だと覚ってからは全然逃げる気配をみせず、すんなり触らせてくれた。 ほんとに毛艶がよくて、さわったらふわふわやわらかくて、しかもとってもやさしい素直な顔をしてるもんだから、ぼくもさぽもいっぺんに彼のことが大好きになった。 さぽは彼を「ちからくん」と名付け、ふたりして「ちかー、ちかー」と、「ら」の部分を英語の「R」のように撥音を煙にまくような感じで呼んで楽しんだ。 ちからくんはものすごく震えていて、咳がとまらず、うんと衰弱してるようだった。 でもその様子とは相反する毛艶の良さ、太り具合が、ちからくんが何者なのかをわからなくさせている。 あきらかに飼い猫ぽいんだけど、なんでこんなに死にそうなんだ?? ミミやぼくらの気をひくための演技だろうか?  ミミは相変わらず家の中から般若の赤ちゃんみたいな「かわいおそろしい」顔でうなっている。 ぼくらのこの行為はミミにたいする裏切りだろうなとおもいつつも、ちっちゃい頭だからべつにいいだろうつってちからくんをかわいがりつづける。 寒いので家にもどって、ミミとちからくんがどうなるのか興味が湧いたので、何が起っても干渉しないぞという態度で見守る。 ミミは家の奥の方からちからくんをじっと見ている。 ちからくんはちょっとずつちょっとずつ、家のミミ専用入り口に近付く。 ああ、このまま家に入ってきたらどうなるのかと、ふたりわくわく見ていたのだが、あと数cmというところで突然ミミが血相変えて奥から飛びだしてきて、がうがうがう!と専用入り口から顔だけつきだしてちからくんを追い払ってしまった。 「自分の家」という意識はものすごく強いようだ。 ちからくんはといえば、しばらくはしょうがなく「う〜」とうなって応えていたのだが、本来が戦闘気質ではないためにすぐにぺたりと座り込んでしまい、あくびなんかして、なにごともなかったような、自分勝手なおきらくムードを漂わせはじめてしまった。 なんてかわいい。  どうかミミが心をひらいて、ふたり仲良くなったらいいのになぁと期待しつつ、ぼくは会社にむかったのでありました。

2002-12-21-SAT

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