No.563 軍鶏舎

いい天気の雰囲気がばしばし感じられるのに、なぜだかパラパラと雨がふる。 空は明るく、気持ちのいい南風が吹いていて、そして南の方はとてもいい天気らしいからいやでもこれからあったかくなってすっかり晴れてしまうんだろうなと期待せずにはいられない。 全快を期待しながらまずは家中を先日届いた掃除機ですいまくる。 すげー。 あらためて、すげー。 こんなすばらしいもの、どうして引っ越してすぐにかわなかったんだろうか? なにをおいてもまず手に入れるべきものだったんじゃないか。 とにかく吸う。 カーペットにからまった毛もなんのその。 いままで何往復もしてやっとすってたちりちりした粒ごみが、たった一回なぞっただけですっかり消えて無くなってしまう。  キャスターの動きとホース根元の360度回転が秀逸で、本体のでかさが全然きにならず、すいすいすいすい気持ちよく掃除出来る。 ノズルは嘘みたいに長く伸ばすことが出来て、めいっぱい伸ばして例の隙間用のさきっちょに付け替えれば高い天井の綿埃や蜘蛛の巣まで簡単にとれる。 あんまり面白いもんだから外の屋根の裏のゴミまですっかりすいこんでしまった。 ブラシ状のさきっちょをつければサッシの隙間の複雑なレールなんかも簡単に綺麗にできて、ほんとに気持ちがいい。 適切な道具さえあれば掃除はこのうえなく楽しい。

午後、期待どおり雨はすっかりあがって、とても気持ちのいい天気になったのだが、今日は寒い。 外で遊ぶにはどうも寒い。 ってんで、ナウシカ探しに古本屋めぐり。 うちのナウシカは5、6巻が抜けてて、4巻まで読み終わったさぽはそれはたまらない。 3件まわっけど見つからず、そんな数百円しか違わないんだからと、いったん家に帰って車を捨て、歩いて七日町にいき八文字屋で正規購入。  で、シベールカフェにいってさぽはナウシカ、ぼくは白痴を読みふける。 さぽの電子辞書が大いに役立ち、なんの疑問も残さずに読みすすめられるのは快感である。 2時間くらいいたかしら? 大満足で、こんどは隣のオサレ飲み屋の偵察にいってみる。 が、今日は貸しきりらしく、夜遅くからでないと一般は入れないとはり紙が。 残念。 じゃあどこで飲もうってしばらく町をぶらぶらして、最後はさぽがマネージャーに教えてもらったという焼き鳥屋「軍鶏舎」へ。 おっちゃんとおばちゃんの夫婦でやっている店で、入るとおっちゃんの祭り好きが一撃でわかるいろんな写真やらグッズが目に飛び込んでくる。 直感的にここは相当「いい」ぞ。  ぼくらがはいって少したって、優しそうな丸坊主のパタゴニアをきた外国人がはいってきた。 夫婦とはすっかり仲良しらしく、日本語もかなり話せている。 うわー、なんか楽しいなー、とおもっていると、こんどは初めて寄ってみた風なおじちゃんがひとりはいってくる。 ちにみにここはカウンターがメインで、奥の座敷きは団体がひと組はいるってぐらいで今日はだれもそっちを使わないからみんな一緒に会話するみたいなことになる。 さらに少したってさっきの外国人の友達がやってくる。 こちらもここの夫婦とはすっかり仲良し。 このころになると、さぐり合いもすっかり終わり、みんな一緒にお話しはじめてうんと楽しくなってきた。 最初にきたのがポール、あとからきたのがダレンという、どちらもオーストラリア出身の31歳。 ダレンのほうが日本語ぺらぺらで、ハイスクールから日本語を勉強しているらしく、ほんとに難しい単語や言い回しまで完全に使いこなしていてびっくりした。 賢い気持ちのいい人たちで、話していてとても楽しい。 おっちゃんおばちゃんもとても気持ちのいい人たちで、ぼくはもうすっかりこの店が気に入った。 さらに30年もかよっているという常連のおっちゃん登場。 常になんでもバカにしてやろう、うちまかしてやろうという感じのふざけた、しかし底にある愛情と知性がそれを気持ち悪くさせないうまいバランスの人で、はいってくるなりオーストラリア人に敵意むき出し。 オーストラリアでは「day=デイ」を「ダイ」と発音するらしく、アメリカ英語とオーストラリア英語の違いを興味津々できいていたぼくらを「ダイズなんていってる田舎ものから言葉おそわっちゃだめだ。日本人はなんでも外国人のことはいはい聞いててそれじゃだめなんだニイちゃん」とニヤニヤしながらたしなめてきた。 ぼくはもうおもしろくてしょうがない。 店のおっちゃんはただちにこの悪たれをたしなめにかかる。 「語学力もないお前がそんなこといってもしょうがねー。 お前がそうおもってるのはいいがそんなことここでいうことじゃねーんだ。」 さらにおばちゃんも「おまえは営業妨害だ」と援護射撃、そしてさらにはじめのほうに来たおっちゃんが横から「あんたはおれと同じで脚も短くていつも負けてるから勝とう勝とうとするんだ。 おれぐらいの年になるとだまって聞いてるようになるんだ」と、もう畳み掛けるようにこのふざけた異分子を集中攻撃。 もちろん険悪なムードなんかではけしてなく、みんなふざけて罵倒しあってる、寅さんの一コマみたいなもの。 それにしてもあまりに孤立してしまった悪たれは心無しかしょげてしまい、すぐさまそれを察知した脚のみじかい先輩はニコニコしながら囁き声で「いいが、負けなよ、頑張れ」といってお土産の焼き鳥をもって帰ってしまった。 すげー。 おっちゃんたち、すげー。 悪たれも、最後までニヤニヤ悪態をついてこれまたお土産の焼き鳥をどっちゃりもって帰った。 それからしばらくポールとダレンからあっちのエロスラングなどを聞いて盛り上がり(あちらではフェラチオのことをhead job というとか、こちらでいうとこのフェラチオの尺八に対して、クンニのことをハーモニカというとか、マグロではなく、スターフィッシュ=ひとでとか。 ちなみにポールはほんとのハーモニカがうまいらしく、しかしそんな話のすぐ後にわざというもんだからどっちのことやらという感じで面白い。)そこにまた常連の60ぐらいのおっちゃん登場。 いれちがいで豪州のふたりは去り、帰り際にぼくとさぽに「そこのスタンディングバーにいるからよかったらきて」と誘ってくれた。  さて、今はいってきたおっちゃんがとても気さくで気立てがよくて知性と好奇心がある気持ちのいいおっちゃんで、こちらを若造としてなめてこないで対等にどんどん面白いはなしをしてくれるもんだからもう楽しくて仕方ない。 この店のお客さんはほんとにいい人ばかりで驚く。 この年代の、飲み屋で話しかけてくる人たちにありがちな、自分の考えを押し付けるんでなく、しっかりとこちらのいってることも聞いて、それにふさわしいリアクションを多大な知恵とともに返してくれるもんだから、ぼくは感激した。 知識と知恵の言葉の使い分けをしっかりしていることにもすごく好感がもてたし、芸工大の羽山先生に対するしっかりとした批判もあまりに的確で驚いた。 こんなおっちゃん山形にいるんだなー。 うれしいなー。 すっかり話し込んで、そういえばスタンディングバーにもいってみたいなと思い出し、素敵な夫婦と素敵なおっちゃんにお別れして店をでる。 ところで驚いたのが、この店にぼくの高校の時の友達のよしひとがしょっちゅう通っていたらしく、ぼくが知っているというとおばちゃんが電話をかけてくれて、実に10年ぶりくらいに話した。 今は仙台にいるらしく、しかしこいといわれればいつでもいくぞというので家の電話をおしえてわかれた。 狭い。

スタンディングバーにさっきのふたりがいたのではいってみる。 ここは注文して頼むとすぐにお金をはらうシステムで、チャージもないから500円しかないときでも安心してはいれる。 ふたりの向こうでの飲みのスタイルに近くて、安心するのだそうだ。 ぼくらもダレンとポールの故郷のビールを頼んで飲む。 あっさりしていてキレがよくておいしい。 ポールの日本の彼女もいて、ふたりは英語で話をしている。 ダレンがぼくらの話につきあってくれて、ダレンの彼女(日本人のピアニスト)の話しだとか、言葉の話しだとかでもりあがる。 ポールが先にかえり、それから20分くらいしてぼくらもダレンも帰る。 もう1時すぎ。  思いがけず、うんと新しい人と出会う楽しい夜になった。 いい店をふたつも覚えた。 知らない人と話すってのはほんとにいいことだ。 世界がいっきにひろがる。 なにより素直にうれしい。 いやー、たのしかった。 ほんとに楽しかった。

2004-03-13-SAT

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