No.696 相馬野馬追

6時におきて、7時前に保原を出発。 公一先生が書いてくれたお品書きのような地図をたよりに東へひた走る。 適度なカーブのうんと美しい山道が続き、走り自体も楽しけりゃロケーションも最高で、ふたり盛り上がっていたらあっというまに着いてしまった。 待ち合わせ場所近くの商店で朝ご飯を買って車で食べていると福子おばちゃんが迎えにきてくれた。 すでに原町の道路には馬に乗った武士がタイムスリップしてきてそこら中を自由に歩いている。 当然道路は馬糞だらけ。 おばちゃんの後について車を走らせ、ぼくは初めて、さぽは10年以上ぶりの志賀家に到着。 家の前には作りかけのイングリッシュガーデンとそれをもくもくと作り上げるみちひろおじちゃん。 もう何年も前から着工しているらしく、よくぞ個人が土日だけでこんなすごいのを作れるもんだと感心する。 池あり、丘あり、川あり、橋あり、デッキあり、流木のオブジェあり、各種ライティングありで、全面芝生、さらにこれから煉瓦で炉を作り、薫製も作れるようにするのだという。 なんつーパワーだ。 庭のウラにはこの為に買ったという小さいパワーショベルのような重機まであるんだもの。  すっかり庭の説明を聞き終わる頃、じいちゃんとばあちゃんがウラの畑からご登場。 みんなで家にはいる。 冷たいものをいただき、一緒にでた茄子の漬け物に感激し、じゃあそろそろ行ってみようぜと、風呂からあがったまーちゃんとぼくとさぽとおじちゃんおばちゃんの5人で野馬追の「お行列」を見に出かける。 じいちゃんはひとりでじっくり楽しむんだといってひとり自転車ででかけた。 会場近くの知り合いの駐車場に車をとめ、そこから3分ほど歩く。 「お行列」が通る、会場へと続く道路はもう観客でいっぱいに埋め尽くされ、そこら中から太鼓の音や露店の客引きの声。 こんな大規模な祭りに来るのは久しぶりだ。 しばらく人混みの裏側に逃れ、5人で話をしながら行列の始まるのをまつ。  「お行列」が始まってからは原則的に道路を横断してはいけないらしく、間違って気の荒い武士の前を横切ってしまった日には、腰にさした真剣で「おのれ無礼者!」つってたたっきられてしまうのだそうだ。 そのぐらい彼らは感情移入しちゃっているらしく、あぶないので刀の柄のところをさらしで縛って鞘から抜けないようにしてあるかチェックするらしい。 すばらしい祭りだ。 祭りってのは死人が出るくらい本気で挑むようなものが断然面白い。 出演する人間は普段のその人を感じさせては絶対いけないと思う。 やるからには完全なトランス状態で挑み、見てる側に本格的な恐怖心を感じさせるくらいして欲しい。 そうでなくてなにが「ハレ」かと。 「ケ」の延長の祭りなんてハナから見る価値がない。  だからいざ「お行列」が始まり、ほんとに「武士」の顔をして猛り狂ったような男たちが現れたときには本気で血がザワザワ騒いだ。 その「役」にもよるらしいのだが、なりきってる人はほんとになりきっていて、まさか現代人が演じているとは思えないようなほんとに「いい顔」した武士が「道をあけろーーーー!!!」つって荒々しく馬を駆って、道路ギリギリに立っていたおばちゃん達がびびって尻餅をついたり逃げまどっているのを見るともううれしくってたまらない!  中には「なんとかさーん」なんて呼ばれて「ああ、どうも」なんて会釈する眼鏡をかけたおっさんなんかもいて、一気に興ざめなんだけど、それでも全体的なムードはとても好感のもてる「イライラした快感」に満ちていて、ほんとにすばらしい祭りだとおもった。 そこらへんのダラダラした祭りとは市民の思い入れが違うんだろうな。  しかしさすがに同じようなのが500頭も横切っていくとそのうち慣れてきてしまい、最初ほど集中して見れなくなってきたのでみんなが集まって見ていたちょっと後ろの方に下がり、おしゃべりしながら軽く見るモードに変更。  まーちゃんが午後から吹奏楽の練習に行くというのでみちひろおじちゃんとまーちゃんが先に帰り、おばちゃんとぼくとさぽは会場に入って古式甲冑競馬と神旗争奪戦を見る。 甲冑競馬は騎馬武者が先祖伝来の旗差物をバタバタバタバタバタタタタタタなびかせてつっぱしっていく様が大迫力で、それが近くで見たいというのであえて芝の観客席(上から全体を見渡せる)にはいかず会場横から見ることにした。 この甲冑競馬は、一周千メートル、十二頭立てで十回行われるのだが、ちゃんとした競馬のようにスタートのゲートがないもんだから、一列に並んでスタートできる状態になるまでかなり時間がかかり、待ち時間が長い割に目の前を大迫力で駆け抜けていくのはあっというまで終わってしまうのが悲しい。 つけパンしてじっくりその荒々しい走りっぷりを眺めたいというバーチャル視点欲望がむくむくとわきたつ。 甲冑競馬が終わると、今度は神旗争奪戦がはじまる。 数百の騎馬武者が、花火によって打ち上げられ風に舞って落ちてくる御神旗を獲得すべく、落下地点に群がり、我先にと鞭を振りかざして奪い合うのだ。 客席からは遠くてよく見えないのだが、実際かなりえぐい奪い合いが行われているらしく、先にとった人が鞭で血だらけになるまでリンチされるなんてのはザラらしく、しかしそれでも旗は離さないのだそうだ。 無事旗を死守したものは、高々と誇らしげにそれを掲げ、本陣山のジグザグの坂道を駆け上がり、賞金をもらいにいく。(旗にはたぶん地元企業のスポンサーがついてる。) 花火一発に御神旗は2本、それが20発打ち上げられる。 ぼくらは2発目が打ちあがったのをみて会場をあとにし、みちひろおじちゃんに迎えに来てもらい家に帰る。 いやー、おもしろかった。 世界最高峰の馬の祭典といわれるだけあるわ。 もうちょっと近くで見れるような工夫があれば最高だったけど、観客数が半端じゃないのでそれは無理か。 

家にもどり、遅い昼食を食べているとみちひろおじちゃんの妹さんが実家である志賀家に遊びにきた。 さばさばとしていながら感激するツボの美しい人で、話していてとても気持ちのいい人だった。 ゴロゴロとクーラーのきいた部屋で休憩し(そうしてる間もみちひろおじちゃんは炎天下の中庭造りにはげむ)、せっかくこんな楽しい日にこうしていてはもったいないと家のウラのステキな竹林など散策。 竹の中に凛と立つ杉の美しさに見とれる。 抱きついて耳をあてるも広葉樹ほど水の移動音が聞こえない。 おばちゃんがまーちゃんにサンダルを届け、学校から友達の家に送る(今夜はともだちと隣町の花火を見にいくらしい)のにぼくらも着いていき、その帰りにおばちゃんとおじちゃんのデートコースの小高い山道につれってってもらうが空気が白んでいて遠くに見えるはずの海が見えず、ぐるりと走って家に帰る。 家の近所をしばらくふたりで散歩する。 土地が違うから植生も異なり、見慣れない綺麗な花がたくさんあって楽しい。 小さな側溝の中になにか動く物が見え、なにかとおもってのぞき込むと、信じられない数の蛙が大行進していた。  夜のバーベキューの買い出しにまた3人で出かけ、肉やらビールやら買って帰る。 だんだんいい感じに暗く、涼しくなってきた。 庭にはすっかりバーベキューの準備が整い(みちひろおじちゃんが昼からやってくれてた)おじちゃんとぼくとでフライング乾杯していると、長女ののぞみちゃんと旦那さんと、しんのすけとほぼ同時期に生まれた男児、士和(しおん)が到着。 いよいよバーベキューパーティーがはじまる。 立体的なライティングでうんと美しい夜の顔に変わった庭の中で、みんなで(じーちゃんもばーちゃんも)肉をくらい、笑い、酒をあび、笑い、夜がふけていく。 外で飯を食べ、外で酒を飲み、外で語らうというのはとても楽しい。 お母さんとそっくりなしおんとびちょびちょになりながら水遊びしたり、旦那さんのウインドサーフィン話を聞いたり、何度もおしっこしに家に入ったりしてどんどん時間が過ぎていき、4時間ぐらいたって、最後はぼくとみちひろおじちゃんのふたりが外に残り、他のみんなは茶の間でしおんを中心に盛り上がる。 まーちゃんも帰ってきたみたいだ。 さぽもときたま現れ、池の小魚を柄杓ですくおうとするがうまくいかずまた家にもどる。 みちひろおじちゃんは実に熱い男で、やりたいと思ったことはなんでもすぐにやっちゃうような人で、信念を貫き、間違いに決してこびないその態度にはとても共感できる。 最後の方は酔いもあってか「失敗したらうまくいくまで2回でも3回でもやればいいんだ。 それだけのことなんだ」の連発になったが、ぼくはもうおじちゃんが大好きになっちゃったし、その言葉は自分自身とても大切だと感じている大好きな考え方なので、いつまででも聞いていたい気持ちになっていた。 ほんとにそうなんだ。 簡単にあきらめる人や、やる前からへこたれるような人、変に自分の可能性を限定して考えて守りにはいっちゃうような人に嫌になるほどしつこく言ってやりたい。 「失敗したらうまくいくまで2回でも3回でもやればいいんだ。」  家にもどり、シャワーを浴び、しおんとのぞみちゃんとまーちゃんとさぽとひと遊びし、ほんで寝る。 ものすごい満足感とともに寝る。 一日中終始暑がっていたさぽに扇風機権の全権を委ねて寝る。

2004-07-24-SAT

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