No.710 HIM+MICE PARADE

ついにこの日がきた…  5年も6年も前からぼくのなかで人類史上最高の音楽として輝き、いまだその地位は新旧あらゆる神憑り的な才能努力によってもおびやかされることなく、絶対的な、ゆるぎないものとして、ほとんど自然景観のごとく(ぼくとして最高の賛辞)、人間の奏でる音楽、あるいは音楽を奏でる人間、というよりは音楽そのものとしての存在として走りつづける、変態天才ダグ・シャリン率いるHIM、そして変態鬼才アダム・ピアース率いるMICE PARADEが、なんと2ユニットまとめての来日、そして同時ライブ! ぼくにとって夢の夢のまた夢のようのようなイベントが、たとえチケットが100万でも行くであろうイベントが、ついに、本日!!  ぐh!  べk!  あまりにすごすぎて、ふたりともなんだか現実味がなく、なにしに東京までいくのかすぐに忘れてしまうほど、脳が興奮、錯乱。  さて、10時半初の新幹線で出発、1時到着。  開場までの時間の使い方はすっかり決めてあったので、予定通りにまず渋谷へ。 会場が渋谷o-nestということで、まず駅ロッカーにお泊まり用のでかい荷物をいれる。 ほんですぐに代官山へ移動。 G.O.Dの場所はそらで覚えていてスムーズに到着。 買うつもりはなかったのだがあまりのかわいさにぼくはプルオーバーの麻のシャツを、さぽは貝のブレスレットを衝動買い。 どちらも奇跡のような出来の良さ。 こういうものが世の中にあるとおもうとほんとにほっとする。 いずれ買うときのために例の靴のサイズを確認。 スタッフのはいているモスの色味があまりにもツボで、ちょっと女性的だと感じて敬遠していた金具部分もこの色だととても自然。 これ買ったらこればっか履いてそう。

オクラ地下でカレーを食べ、ボンジュールレコードを泣く泣くスルー、電車で原宿に移動し、ちょっとわかりづらいなんとかビル地下にある雑貨屋へ。 入口のところでミシンがけするおばちゃんのあまりの美しいオーラに見とれる。 無条件で「こういう人間になりたい」と思わせる態度、顔つき、姿。 置いてあるものも皆すばらしいクオリティ。 大満足で店をでて、もう一軒緑に囲まれ(園芸屋もやってる)カフェと一体になってる生活雑貨店へ。 ここはエフスタイルの商品も扱っていて、例のマットや石けん置きなんかがおいてあった。 それとはちょっと違う石けん置きを購入し、歩いて渋谷へ。 ロッカーに必要ない荷物を追加し、さらに身軽になって会場へ。

o-nestとo-westというふたつ似たような名前のライブハウスが隣接し、ぼくらと関係がないo-westには長蛇の列。 こっちよりちょっとはやい時間から誰かのライブがあるみたいだ。 しばらく時間つぶしして開場をまつ。(実はこのとき近くをアダムやジョシュが普通にとおっていったりしたのだが、ダグのスキンヘッド以外確信をもってそれと判断できる、メンバーの目立った特徴を知らないぼくらは、もしかして?という中途半端な好奇心をいだいただけで、接触のチャンスを棒にふってしまった)   同じライブを見て、そのまま泊めてもらう約束のともとみきてぃはまだこない。 整理券番号なんと1番らしいのだが、仕事を休めずおわってから飛んでくるのだ。 ほどなくして開場。 ここの仕組みは面白く、6階はチケット無しではいれるクラブになっていて、そこでお酒を飲みながら下の5階でやってるライブをスクリーンで見ることができる。 まずドドっと6階に通され、そこからやっと整理番号順に5階に通される。 7番8番とかなり若い番号をゲットできたぼくらは、正面2列目を陣取る。 位相がおかしくなるから後ろにしようか迷ったが、やはり前でしっかり演奏を見たい。 しばらくしてともとみきてぃがやってきたのを見つけるが位置が離れているので終わるまで接触はできない。  さて、7時30分、時間どおりの開演。

ところがでてきたのはドッキドキに緊張しまくった、どうみても一般人オーラの日本人の女の子。 ステージ中央に用意されたパワーブックの前に立ち、マウスをカチカチしはじめると、緻密なサウンドスケープが溢れ出す。 どういうソフトでどういうことをしているのかよく分からないが、彼女は終始画面を凝視し、印刷オペが切り抜きようのクリッピングパスを作成しているぐらいのアクションとスピードでマウス操作をし、その操作に連動してトラックが次々に変化していって曲が展開していく。 あとでわかったのだが、この女性、ファットキャット(英レーベル。mumとか)からアルバムリリースしている日本人アーティスト「chib」という人らしく、知ってる人は知ってるんだろうけど、知らない人は何が起こっているのか分からないまま(なにせこっちはHIM+mace paradeのライブを見に来てるつもり)、ただ目の前のどうみても素人の女の子の動きのないステージを見守ることになり、しかもそれが予想の10倍も長く、なんと45分間、ひたすら延々展開する予想外のエレクトロニカを、盛り上がりどこもわからないまま聞かされることになり、20分を過ぎたくらいからはほとんど拷問だった。 これはあきらかに主催者の構成ミスといっていい。 何がミスかって、長すぎた! あまりにも長すぎた。 どうしたってせいぜい10分以内におさめるべきだった。 お目当て以外のものがいきなりでてきて、それがはっきりした説明もないまま冒頭45分、動きといえば右手のマウスクリックのみ。 どうひいき目にみてもこれはひどい。 音楽そのものはかっこいい賢い繊細な、きらいではないものだったけど、そういうことじゃなく、とにかく強烈に苦痛だった。 後半なんてみんな談笑しはじめてしまい、最初それがウワモノトラックだとおもって、会場の雰囲気まで予想したすごい音づくりだとびびったのだがすぐにリアルざわめきと気づき、それからは彼女への同情まで感じてしまって、とにかく苦しかった。

chibが引っ込んで、一時休憩みたいな雰囲気(セットチェンジ)になって、ちらほらと見慣れた外国人があらわれはじめ、各々の楽器をいじりはじめた。 ドラムにすわった好奇心の塊みたいな顔したスキンはダグ、ギターをもった眼鏡のタトゥーはジュシュ、恰幅のいい、しかしやさしい聡明そうな顔の黒人はベースのグリフィン、キーボードのロブ、そして正面に陣取り、ギターをチューニングしながら忙しそうにタバコをすっているのがアダム。 今回のHIMはこの5人編成。 もう喜びのあまり倒れそうだ。 ついに、ついにこの目でぼくの中の神様みたいなことになっちゃってる人たちを見ることが出来た。 みんな、医者か政治家(もちろんブレーンサイド)かってぐらい強烈に賢そうな顔をしている。 あまりにも頭も身体もまわるので、すっかりコントロールできてしまっているその姿はみんな聖者のように穏やかで、音楽に対する愛に充ち満ちているのだが、しかしやはり危うい病的な神経質さがどうしてもにじみ出ている、まさに期待通りの「並はずれた天才」が醸し出すあのオーラを例外なくはなっている。  そして突然音楽がはじまる。

ぼくはこれまで何年間も、繰り返し繰り返しこの人らの音楽を聴きまくり、聴いてないときでも頭の中でむくむくむくむくとその印象は美化されていくばかりで、はっきりいって今日の演奏に対する「期待値」というのはあまりにも高かったはずである。 あまりにも高すぎる期待は、期待を抱かせた当人たちでさえ超えられない幻想に成長し、もはや観念としてしか存在しえないものになってしまう悲劇を生むものである。 つまり、どんなに超天才的な、度肝を抜くアイディアの、完璧な演奏をしても、具体性のないフィクションの美を期待するぼくを満足させることは誰にも不可能になるということだ。   ところがだ!    なんなんだこの人らの音楽は!!!!!!!!  もうぼくの想像なんていう域はとうに飛び抜け、人間界の美意識の限界とおもわれた壁すら一気に突き抜け、ただ、ただ、絶句…………………   これが、「天才(化け物)」というものか。   ぼくも、さぽも、涙がでるのを通りこし、声をあげて笑ってしまった。 人間、あまりにも度をはずれた感激に達すると、おさえきれない笑いが細胞いっこいっこから漏れるのだ。  とにかくすごすぎる!!!!!  ここまで高度な、ここまで完成された音楽を、ステージを、人間が頭で考え出し、生身の身体で体現できるものなのか!!!!!   もはや彼らは楽器を楽器のもつルールに従い、つまり物理現象に従い、操り、音を出す奏者ではなく、「楽器そのもの」となり、またかれらは音楽の秩序に支配され、その秩序のなかで音楽を操るのでなく、音楽そのものを支配し、みずからがリアルタイムで「音楽の秩序」となっていくといえるような域にまで達していた。  アダムはギターをひいてたかとおもえば(ものすごく難解なコード展開をとんでもない表現力で完璧に演奏しやがる。本職ドラマーのくせに!)曲の最中にヴィブラフォンに移り、これまたプロヴィブラフォン奏者のごときすさまじい演奏をこなし、そしてついにドラムに移動し、ダグとのツインドラムに展開。 どちらのバンドともドラムがリーダーということもあり、リズムのアプローチの面白さ、リズムを基軸にしたアイディアというのが抜群にセンス良く、そんじょそこらの「ドラムソロ」とは次元が違う、アンサンブルと融合しながらの全体機能における「リズムソロ」ともいうべき幸福の洪水が始まる。 インプロバイゼーションの極致だ。 奏者(いや楽器か、いやいや音楽だっけ)の顔はもう「恍惚」以外の何者でもなく、特にドラミングがのってきたときのダグの顔は「初めて笑った乳幼児」のように純真で気持ち悪くて最高だった。(Bのグリフィンのノリも特徴的で、どんな複雑なリズムの時も必ず4拍子でしっかり顔を上下に振り、そのかわいさは「アダモちゃん」そのものだった。) ほとんどが聞いたことのない曲で(既存の曲をベースにしてても、あまりに多彩なアレンジによってほとんど原型がなく、印象としてすべて書き下ろしの新作のように聞こえる幸福!)構成されたステージは淡々と進行し(言葉が違うからMCがなりたたないのか…)、夢のような時間が過ぎていく。  さてメンバーが大半かぶってはいるものの、一応HIMとMICEはしっかり分けて扱っている。 前半のHIMがおわり、セットチェンジ後のMICE PARADEはベースが消え、ビブラフォン専門にディラングループのディラン、ギターがジョシュからダンに替わり、ボーカルとしてmumのクリスティーンがはいる。 クリスティーンのあまりのエロさ(ロリ)に、しばらく純粋に音楽を楽しむ気持ちが乱された。 ここにくるまで知らなかったけど、クリスティーンてのはアーティストでなくアイドルなのね。 位置的に。 mumにおいてはどうかしらないけど、急に人間がかわるわけもないだろうから、さしずめアダムがつんく♂ か。 天才鬼才のおっちゃん方が、親戚のちっちゃい女の子を預かってでもいるようにクリスティーンを扱っている。 天然ロリータキャラとして完全に演じきっていると自負するクリスティーン(なにせ足踏みしながらアコーディオンを弾いたりする)と、それに騙されるふりする狡猾なおっさんたち。 そんな印象。 とにかく強烈な場違い感がほとんどインスタレーションアートで、クリスティーンのミスは全体の演奏とは別物とみなすようにニヤニヤ苦笑するおっさんたちのいやらしさが愛おしかった。  すでにHIMでぼくはこの興奮感動を表現できないとさとったので、具体的な、はちゃめちゃにかっこよかったシーンを思い出して、この拙いライブレポをおわりにしますね。 ギターを弾きながらクリスティーンとダブルボーカルで歌っていたアダム(最新アルバムは唄がはいっている曲が数曲あるのだが、個人的には余計)、間奏部分にはいり、唄は消え、演奏のニュアンスが切り替わり、インプロの匂いがしはじめる。 ダグの神懸かったポリリズム、シンコペーション満載のドラミングにあわせ、アダムが自分の座っている木の四角い椅子(立方体のような作り)の全面をコンガでも叩くように叩き始める。 形だけ真似て、アダムは叩くポーズでのっているだけだとおもって見ていたのだが、だんだんとリズムが分離して複雑化していく。 あきらかにダグのドラムとは別の打撃音が、すさまじい複雑さできわだち始めた。 まさかとおもってアダムの座っている椅子をみると、後ろの板が外され、中にマイクが仕込まれているじゃない!!!  かくして変則リズムソロがまたしてもはじまった。 あまりのすさまじさに、休憩中のメンバーも呆れ顔で見守る。 ぼくたちも笑顔のまま表情がかたまったようなアホ面でぽかーん。  あのね、圧巻。  世界最高峰のドラマーのインプロデュオは、時間が凍り付くほど圧倒的なうねりを生み出し、本人たちもだんだんと悪魔のしっぽを出し始め、椅子は次第に壊れていき、板がバリバリはがれて浮いてきたところもかまわず叩くもんだからだんだんささくれだってきて、しかしそれでもやめないもんだからさぽはこのままエスカレートして自分で首をかっきって自殺するんじゃないかと想像したほど。  椅子ソロがおわってちゃんとしたドラムに移動するさい、我にかえったアダムはかなり手のひらを気にしてた。 棘刺さりまくりの血だらけだったんじゃないかしら?  はい、レポ終了。 ぼくもさぽも、今まで以上にどっぷりはまってしまったことはいうまでもありません。

ライブ終了後、ようやくともとみきてぃと合流し、興奮を分かち合い、渋谷駅へ歩いていく。 モヤイ像のところのロッカーから荷物をだし、ふたりの住まいがある川崎へむかう。 あまりにながくなったので、12時以降は明日の日記へ続く。 初の試み。

2004-08-07-SAT

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