No.910 ほんとうに死ぬかとおもった

寄せ書きのために用意された真っ白のパズル。 これになにか絵を描いてくれとたのまれ、もう半月も前からほったらかしておいた。 今日中に書かないとまずいとちゃんすに促され、ついにとりかかる。  ほったらかしにしていたのにはワケがあった。  このツルツルとした素材感、微妙なでかさ、ピース間の切れ目が及ぼす描画時の嫌な描き心地、油性マーカーという画材、「なにか描いて」という漠然とした期待、寄せ書きの中央という性格、あらゆる要素がぼくの考える「絵」を描くにふさわしい環境と正反対を向いていて、どこをどう考えても、見るに堪えない、中途半端な、ひどい出来上がりにしかならないことを、はじめから体が感じてしまっていたのだ。 べつに、妙に張り切って、ここにすばらしい傑作を描いてやろうということではないし、気持ちの問題だということも分かっているし、ノリでさらっとおわしてしまうようなものに過ぎないということは十分すぎるほど分かっているのだけれど、しかし自分の中の、どうしてもゆずれない最低限のラインというものがある。 メモ帳に、自分の納得いかない気持ちの悪い絵をうっかり描いてしまったというだけで、そのページは想像を絶するストレスの種になり、それが存在していることを考えただけでも気持ちが不安定になり、お腹がギリギリと痛みだし、目の前の世界はグルグルまわりだし、地獄の苦しみによって気を失いそうになる。 だからもう修正不可能とわかった時点で破り捨て、焼き払うほかない。 この世にそれが残っていることが絶対に許せない。   で、こういうのは本当に勢いでさらっと描いたら、なんだ、なかなかいい線が描けたじゃないか、というのが一番いい、というかそれしか答えがないようなものなのだが、しかし今回ばかりは、さっき挙げたような、良いものになりずらい要素があまりに多すぎて、もう絶対に手が出せないという恐怖にはじめっから完全に飲まれてしまった。 嵌ってしまった。 もう試合前からギブアップである。  己の意志で立ち向かった以上、そこから逃げることは性格上絶対にできず、だけどこうなった以上どうしたってどうにもなるわけもないことも完全に知っているという、絶対に答えが出ない矛盾地獄をグルグルグルグルまわり、3時間ほど切り裂けそうなお腹と破裂しそうな頭痛に耐えながらできる限りのことをしてもがいたのだが、やはり結果は予想通り、いや予想以上に最悪な、おぞましい、記憶にとどめておきたくもないようなものができてしまい、ぼくは人にこんなものをあげれるわけがない、そんなひどい侮辱はない、というか自分自身が耐えられないようなものを、目を覚ましたちゃんす先生に見られて「え、全然いいじゃん」なんて気をつかわれるのを想像したら、もう苦痛で世界が裏返ってしまいそうで、急いでパズルを食べてしまうほかなかった。     厚いボール紙でできた、20センチ角のそのパズルを飲み込むのにはそうとうに難儀したが、それまでの苦痛に比べたら、なんてことはなかった。  ぼくはこの一件で、本当に落ち込み、そして今後、決して安請け合いするもんじゃないということを覚えた。  勝算のある試合しかしない、ということでは決してなく、自分が自分で合格点をあげれないものを周りが望んだとしても、絶対にそれにはこたえちゃダメだという意味において。  心から反省。

こんな情けないこと、こんな風にあけすけに人に話すべきじゃないと思ったが、そもそもこの日記というのはそういうことを、普通なら絶対に外側に漏らさないようなみっともない己の心の卑小さや弱さや醜さや秘密を書いていこうというところからはじまったんだったよ。 世界に対して徹底的に正直でいられるように、他人を傷つけない範囲で、なるべくなるべく本当のことを書いていこうというところからはじまったんだったよ。      すっかり忘れてた。 

2005-02-23-WED

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