No.934 鈍行列車旅行一日目

半日みっちり働いて、正午に家に帰る。 快晴。 ミミを愛で貯めして、ちょっと早めに家をでる。 八文字屋でフライ関係の書籍を見ながらさぽのあがり時間をまつ。 アズ裏で合流。 駅に向かう。  現時点で決まっていることは、移動のメインは米坂線を使うということと、初日の夜は新潟に泊まるということのみ。 明確な目的がない旅というのは実に楽しい。 というかぼくとしてはこれこそが旅である。 前々から、がっちり組まれた予定をひたすらなぞっていくというスタイルの旅行に強い強い不快感を感じていたのだが、新婚旅行のウィーン、社員旅行の韓国、ハワイ、また旅ではないのだが東京出張期間中の品川、それぞれで味わった勝手気ままななんてことない散策の喜び、そして昨年からの徒歩通勤の好き勝手なルートを歩く快楽などを経て、自分の旅の趣向がはっきりとしてきた。 ぼくの求めるものとは、とにかく、その時その時気になった路地へフラフラと入っていって、でたサイコロの目をその都度楽しみ、成り行きで予想もしなかった出来事が次々起こるその流れに身を任せることであり、それこそが最高の快楽なのだとはっきり分かった。  ぼくの作品の作り方というのもまさにこのやりかたで、ひとつきっかけを暫定的に作ってみて、それをいろんな角度から眺めたり、転がしてくっついた屑に着目したりして、ひたすら偶然性を楽しみながらどんどん展開させていって、最後には思いもよらないものができてしまう、というパターン。 何度か最初にしっかりした構想を練って、その骨格に肉付けしていくというやり方を試みたが、どうしてもぼくはこのやり方が出来ない。 本当に絶対に出来ない。  絶望的に向いていないのだろう。  おそらく自分はなにをするにもこういうやり方が基本になってくるんだとおもう。 だから、常に偶然が一瞬みせる美しさに気づけるだけの審美眼を磨いておく必要がある。 そしてつかまえたある「景色」を運用できるだけのあらゆる準備もしておかなくちゃいけない。    米坂線は期待どおりの楽しさ美しさで、目を、耳を、あらゆる感覚をこれでもかと喜ばせてくれた。 長い移動時間のためにと用意しておいた本も音楽も、まるで出番がこない。 とにかく車窓に、タタンタッタタンのリズムに、興奮。  坂町で30分ほどの待ち時間。  せっかくなので、以前から気になっていた「米坂線」の「坂」がどんな町なのか探索。  あまり遠くまで行かないよう気を付けながら、心惹かれる路地にどんどん入っていく。 うっかり居酒屋にはいって飲み始めてしまう衝動を必死で抑え、なんとか駅に帰り、羽越線に乗って新潟に向かう。 日が落ちて、景色が見えなくなってしまったので文庫本を読むが、後ろ向きのせいか酔いそうな気配を感じて断念。 そうこうしてる間に新潟に到着。

この規模のほとんど知らない街に降り立つというのはなんとも楽しいもので、ふたりささやかに興奮状態。 まずは荷物をおいてしまおうと、今夜泊まる予定の「ドーミーイン新潟」を探す。 素泊まり2000円で、サウナ付き大浴場を擁するというあやしげなホテル。 すぐにみつかり、チェックイン。 なんだか不思議な市営住宅のような吹き抜けのつくりに好感がもてる。 部屋もただ泊まるのにちょうどいいサイズで、過不足無く、いい感じだ。 これにサウナ付き大浴場が24時間使えて、2000円。  これを知ってたらあほくさくてほかのビジネスホテルになんか泊まれない。 これからは旅先にドーミーインがないか必ずチェックしなくちゃだ。   安くて良いホテルに大満足して夜の新潟駅前へ。 金をかけない旅行とはいえ、初日の酒ぐらいおいしく呑みたいとは、お互いなにもいわずともわかっている。  コンビニでお店情報をちらと見て、どうも駅裏のけやき通りにおもしろそうな店が並んでいるらしい事を知り、苦労して駅裏に抜け、けやき通りを西に向かって歩く。 何件か候補をキープしつつ、「上流にはなにかいいことがあるはず」と何の根拠もなくいいポイントをつぶしながらひたすら釣り上がるアングラーよろしく、どんどん西へ。 しかしどうして上流にはたしかに幸せがまっていた。 店の名前こそど忘れしてしまったが、たいそう美味しいお店に巡り会えた。 トマトと貝のパスタ、チーズ盛り合わせ、タコマリネ、揚げ春巻き、自家製ピクルスと、無国籍ながらなんでもちゃんとうまい。 各メニューにはそれぞれ他にはないような一工夫がほどこされ、全体にとても丁寧な印象をうけた。 CDの棚が目の前にあったので、自分のごく近くのあたりだけちらっとみたのだが、ビルエヴァンス、ジョアンジルベルト、山下達郎と並んでいた時点でもう大好き。 脱サラか、店長? がんがれ!  チーズに付いてきた自家製のクルミパンが抜群においしくて、ふたり大興奮! 酵母はホシノ天然酵母だった。 さぽのパン製作欲に火がつく。

とても満足して、気持ちよく新潟の街を歩いて帰る。 アイスなど買ってホテルにもどり、大浴場とやらにいってみる。 すごい! スパー銭湯なみに充実したいろんなお風呂があって、まさかこんなビジネスホテルにここまでちゃんとしたスパ施設があるだんなんて夢にも思わないから期待値を大きく上まっての大感激。 勢いのいい打たせ湯がこれまた気持ちいい。  このホテル、全体にいえることなんだけど、かゆいところに手が届きまくっている。 いらないものがなくて、ほしいものはちゃんとある。 もうちょっとでうるさくなるような工夫もギリギリの所でうまくまわっていて、とにかく終始印象が良かったなぁ。 幸先いいです。  

2005-04-15-FRI

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