No.947 白鷹

会社を定時であがり、家でちゃんすをひろい、ワクワクと白鷹へ。  今日はついにとしひこさんと陽子さんの住む家にお泊まりどぶろく祭りに行く日なのだ。 大きな期待と同時に、おそらくうけるであろう様々なショックに今から緊張する。 この二人と一晩話し、その生活を目の当たりにしてしまったら、間違いなく自分の中で何かがおおきく変わるであろう事は馬鹿でも予想がつく。 そのくらいこの人らの生活は徹底している。 俗人が訪ねていって生活を乱してしまうことに対する申し訳なさと気後れと、そういう気持ちが全部まざったなんともくすぐったいような楽しい感覚。 大好きな雰囲気の空の色(肯定的な、限りなく白っぽい青空)、西にむかう通り慣れない道。

約束の7時にうんと立派な桜の前に到着。 八重じゃないのだが八重のようなポップコーン桜。 ふたりと合流。 しばらく桜を楽しみ、白鷹には1000年以上の老木がたくさんあるがさすがにそれだけ古いと痛々しい感じが強いというような話をし、それではそろそろっつって家に向かう。  しばらく後ろについて走り、舗装道路から、知らなきゃ通り過ぎるような林の中の小道に入り小川をこえしばらく進むと木が無くなり、畑がひろがり、ちょっと奥には山があり、というひらけた場所にでた。 そしてその空間の真ん中に、ぽこっと手作りの木の家が建っている。  しっかりした作りの、現に厳しいこの土地の冬を2度越したという実績をもつこの素敵な家を、なんとこのふたりはのこぎりやさしがね、かんな、げんのう、のみ等の最小限の昔ながらの大工道具と、脚立ひとつで、完全にふたりだけで建ててしまったのだ。 今のぼくにはもうなんのこっちゃ??というぐらい信じられんことだ。 釘をつかわない日本の誇る昔ながらのすばらしい工法を図書館で学び、プロの大工も疑ったほどの完成度でもって作り上げてしまったのだ。 この人たちの、がっと集中してものごとを学び取り、消化吸収し、それをただしく運用するパワーは、この後きいたさまざまなエピソードでも嫌というほど思い知ることになるのだが、とにかく尋常でない。 自分が求めるあらゆることにおける「生活力」(衣食住にかかわるリアルな運用能力、審美眼、イデオロギー、語学力や社会的行動力、フィロソフィー)の、ひとつの完成形を見たといっても過言ではない。  いきなり、たまたま、「one of the 世界最高峰の自給自足」に出くわしたという感じで、いままで「いい」と思えていたいろんなものまでが、一気に中途半端で俗っぽいものに思えてきてしまった(ということは、いままでどうだろうと迷いながらも生活のなかにあった様々な妥協は、自動的に、ごく自然に排除されるスイッチがはいったということだ)。 良い意味で、大いに心を乱された。 福祉先進国スウェーデンの悲惨な実情、飲み水なんかもはや一滴もないというニュージーランドの自然破壊、田舎の人間の想像を絶する排他精神、ごみの分別のその後の許し難い処理、農家の生活排水が当然のように田んぼに注ぎ込まれるという恐怖、そういう話を、決して啓蒙してやろうなんていう気持ちではなく、傑作な面白話として、もちろん実際に自分で見て感じた上での経験則として、次々にきかせてくれる。 ふたりともかなりぼくたちや、ぼくたちが大好きな友達なんかとノリが近く、単語の使い方(「バカ」とか「変態」に愛を含むようなジャーゴンの特徴)もすごく似ているから、会話がとにかく楽しい。

家は半分「外」のようなキッチン部分(土間的な性格)と、靴を脱いであがる居間、そしてロフトの上に収納とふたりの布団があり、居間には一面に建て付けの棚があり、そこにいろんな民藝や羊や生活に関する魅力的な本(先日公一船長がさぽに送ってくれた、綿と紅花の本と同じシリーズの羊の本があって、これを書いたのはとしひこさんの知人なのだそうだ)や、紡いだ毛糸玉やらがならべられ、部屋の奥には大きな木製の織り機がある。 電気は最小限、夜の電灯(ふだんは9時には寝てしまうそうなので、今日は無駄に夜更かしさせてしまってとても申し訳ない)と冷蔵庫ぐらいのためにひいてあり、水道はなく、雨水を溜めて使っている。 食べ物もほとんど自分たちで作った野菜や毎朝家禽から産み落とされる卵中心で、しかし菜食主義ってわけではないので肉なんかは買ってきて食べる。 最近知り合いの作る玄米を食べてその美味しさをしり、いまは主食は玄米。 今日ぼくらが御馳走になったのは、豆やはくさい、くきたちなどの料理が中心で、煮物にはうんと美味しい角煮もはいっており、終盤にはとしひこさんの手打ちうどん(話しながらその場で打って切ってくれた)、そしてお酒もとしひこさん自作のどぶろく。 どれもまさにぼくらのど真ん中の美味しさのものばかりで、ぼくもちゃんすもほんとにずっと感激しっぱなしだった。  便所なんてものはなく(実はあったのだがこの日は知らなかったし、男の小ならばそのへんでしろとのことで正解だった)あたりまえのように外で立ちションしていると、周りの景色はトトロ引っ越し初日にさつきが見た景色そのものだった。  やばいわ、ここ…     四角いでかい快適寝袋を借りて、床に羊の毛皮(ぼくのおしり当たりに敷いた毛皮の生前の名はジョン君)を数枚敷き、12時ぐらいに就寝。 夢心地で、なんだか実在感がない。 いろいろな思いが頭をかけめぐる。

2005-04-28-THU

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